看護師道下の読書続けてます。【家守綺譚】
2021.09.10
数年前、当院で刊行していた「Sennan Times」の空きスペースで、看護師道下の読書始めました!という小さな記事を書いていました。
「Sennan Times」はお休み中(そろそろまた作りたい)ですが、読書は続いているので、この場をお借りして最近読んだものを(動物の出てくるものに限り)ご紹介したいなと思います。
『家守綺譚』梨木香歩
『いえもりきたん』と読みます。
ほんの百年ほど前、もの書き志望の主人公が、亡くなった友人の家を任されることになるのが話の始まりです。
田舎にある庭つき、池つき、縁側つきの二階屋を守りながら、その地で色んな植物、動物、人びと、それ以外のものたち(!)と交歓するうちに、ゆっくりと自分自身を知っていくようなお話です。
話の中で、主人公の家の庭にゴローという犬が住みつくのですが、そのゴローがとても可愛いのです。
ゴローのおかげで、主人公は犬好きのおとなりさんからもらう「ゴローの晩ごはん」のおまけにありつけたり、狸に化かされそうになった時や危険が迫ったときに、ゴローの声ではっと目を覚ますことができる。
どこか不思議な力を持っていて、主人公を外界とつなぐ、物語の中でもなかなか重要な役割をになっています。
そんなゴローを見ていると、なんとなく自分の愛犬と重ねて考えます。
彼を通して私はいろんな人に出会っているし、そのおかげで仕事もこんなに充足感をもって続けていられます。
もともと他人と距離を縮めることが億劫な私でしたが、早朝の散歩で出会う人たちに挨拶をすることが、こんなに気持ちの良いことだと知ったのも彼のおかげです。
しょげてじっとしている時でも、げしげしと人の体に飛び乗って、
― 散歩行こうぜ!
― そんな気分じゃない。
― 知らん!
― 知らんか、そっか、それもそうか。行ってみよっか。
のろのろと動き出して行ってみると、そんな日に限って新しく綺麗なものを見つけたりします。
犬はそしらん顔ですが、ありがとう、と思います。
本当に散歩に行けない時はなぜか静かに寝ています。静かというか、ガーガーいびきをかいて寝ているんですが。その顔を見て撫でてみると、
― まだか?
― もうちょっとです!
なんだかすごく気を遣わせているような…。
そのあと散歩につれていくと、とても楽しそうな顔をしますよね。
できるだけ、待たせないようにしよう。そう思います。
家守綺譚は決してそんな話ではありませんが(笑)
どうしても動物に焦点をあてて読んでしまいまうのは職業病です。
読んでいるうちに、愛犬にもそういえば不思議な力があるなと思い至りました。
時代や飼い方が違っていても、人間と犬の関係の性質のようなものは、変わらなかったらいいなと思います。
話の中ではほとんどの設定や境界線みたいなものがぼんやりとしていて、一度読んだだけでは世界観に馴れたかな、くらいなのですが、二度目はああ、あれはこういうことだったのか、じゃあこれはどういうことなんだ?とまた新たな疑問が生まれます。三度目を読むのが今は楽しみです。
短編集形式で、一つ一つのタイトルが植物の名前になっており、それになぞらえた話になっています。
冒頭一話がサルスベリなので、今読み出すのにはぴったりではないでしょうか。
もし読まれたら次に、気に入った植物はぜひ実際に見に行ってみてください。
話の中で、なぜこの植物がタイトルになっているのか?ということが、ふと分かったりします。短歌や和歌を読んだ時の感覚に似ているかもしれません。
そして愛犬と一緒に、晩夏から移り変わる自然をぜひ楽しんでください。
当院にはちょっと濃いめのサルスベリがおります。
動物看護師 道下