減感作療法を使ったビーグルのアトピー性皮膚炎
2021.07.22
ビーグルのアトピー・アレルギー、外耳炎などかゆい皮膚病の治療に力を入れている泉南動物病院 皮膚科担当獣医師 横井愼一です。
さて今回ご紹介する症例は当院スタッフの家族の一員である1歳の時からかゆみを患うビーグル、5才の女の子です。
・1歳の時から外耳炎、全身に強い痒みがあり、アポキル、スキンケア療法、外用のステロイドで治療
・IgE検査で 牛乳、とうもろこし、ナマズが陽性
・春から夏にかけての痒み
・鹿肉のグレインフリーのフードを与えている
治療前です。
体の毛が、ケバ立っている のがおわかりですか?
毛刈りした部分はブツブツとたくさんの赤い皮疹があります。
口周りには紅斑がでており
前肢と後肢は、痒みのため噛んでしまい脱毛しています。
この子は、そもそもワクチンアレルギーも持っており、アレルギー体質であることは間違いありません。
この症例で注目すべきは、初発は1才であり、季節性があることです。
ご家族は何か手がかりはないかと、血液でのアレルギー検査を希望され実施しました。
その結果、牛乳、とうもろこし、ナマズが陽性と出ましたが、血液検査では正確に食物アレルギーを診断出来ません。
その後の負荷試験では魚、豚肉、カンガルーなどで、痒みの再発や、消化器症状が現れることがわかっています。
● 診 断 名 ●
治療法として3歳までは、皮膚のかゆみ症状が出るたびに、ステロイドやアポキルが処方されていました。
しかし、投薬するたびに頻尿などの副作用があり、なるべくこれらの投薬はしたくないとのことでした。
・かゆみ症状に季節性がある
・ステロイド・アポキルはなるべく飲ませたくない
・体質改善による根治治療を希望
そこで、追加検査として、ハウスダストマイト(家の中のホコリにいるダニ)のIgE抗体検査を行いました。
結果は陽性反応が認められました。
このダニのIgE値が高い場合は、アレルミューンによる減感作療法(減感作療法について詳しくはこちら)が選択できます。
減感作療法とは、犬アトピー性皮膚炎の原因となっているアレルゲンを体に入れることで、犬アトピー性皮膚炎を体質から改善し、症状を和らげる治療法です。
痒みの原因と考えられるダニからの抽出液を少しずつ犬に注射し、徐々に体を慣らして行きます。
結果として、一年中必要だったかゆみ止めが、要らなくなったり、減薬できる可能性があります。
現在、投薬している薬の副作用や、これから一生続く長期的な治療を考えると、少しでも体質が改善し、投薬する量が少なくなる可能性のある減感作療法が良いのではと提案し、早速治療に取りかかりました。
減感作療法の治療後1年です
昨年と同時期の皮膚ですが、全く痒みもなく皮膚症状もまったくありません。
今年も、何度かかゆみ止めの注射を数回行いましたが、昨年と比べて明らかに症状が穏やかでした。
かゆみが落ち着いているので足を噛まなくなり、足の脱毛もありません。
現在の治療は、週に数回のステロイドの外用薬のみです。
犬アトピー性皮膚炎は、生まれつきの体質のもので治りません。
10年前のアトピー性皮膚炎の治療の選択肢といえば、ステロイドの内服と外用だけでしたが、現在犬アトピー性皮膚炎の治療として選択できる治療法は複数あり、たくさんの選択肢があります。
ただ、これらの治療薬は、痒みを止める対処療法で体質を変えているわけではありません。
ステロイド・シクロスポリン・アポキル・サイトポイント
体質を根本から変える治療薬
減感作療法(アレルミューン)
これらの治療結果を踏まえ、現在私は通院中の犬アトピー性皮膚炎のご家族に以下のように説明し、症状を緩和する治療薬と並行して、減感作治療をおすすめしています。
・長期間ステロイドを飲ませ続けるには、副作用のリスクが高いです。
・長期間アポキルを飲ませるには、お薬の費用が高くなります。
・この治療法は、犬アトピー性皮膚炎の症状をやわらげ、治療をなくせる可能性があります。
この子は今年も減感作療法を継続することで、さらに来年に向けて体質改善を行い、ステロイドや、アポキルなどのかゆみ止めから完全に離脱できることを期待したいと考えています。
<ご家族からのメッセージ>
うちの子は痒み、発疹、フケがひどくても、副作用が出やすい体質なので、お薬を使わずにケアだけで症状を抑えようと毎日必死でした。
院長にも「この薬は使いたくない!」など、色々とワガママを言わせてもらいました。
今回、減感作療法を提案していただき、この1年半、とってもいい状態で過ごすことができました。
この子自身も痒みから解放されて、毎日イキイキとしているように思います。
注射のたびにおやつをもらえるので、病院が大好きです。
今回おこなった減感作療法は治療期間がとても長く、治療はじめはこまめに通院しなければならず、費用もかかってしまい、最初の頃は大変でした。
ですが、今は通院する回数が減り、ほとんどお薬も使わないようになり、痒みのない生活をさせてあげることが可能になって救われました。
これからは皮膚のことを気にせず、一緒の時間をもっと楽しんでいきたいと思います。
雑誌asに掲載されました!
2021年6月号 動物看護専門誌「as」 犬にやさしいアトピー性皮膚炎の治療法
しばらくの間、待合に掲示していますので、ご来院の際にぜひご覧ください。
犬や猫の皮膚のかゆみ、脱毛症でお悩みの方は一度ご相談ください。
院長 横井